エレメント・スタイル

  「剣士は剣を、魔術師は杖を掲げよ」






棋力は自己に眠っている素質を引き出せるほど上がります。今回の話は、長期的に潜在力を発揮する方法についてです。


潜在的な力を発揮するにはどうすれば良いか。それは非常にシンプルですが、自分の性質に合っていること、つまり「向いている事」をすることです。


しかし、実際にそうできている人はあまり多くないと思うのです。不器用なのに右玉を使ったり、受け気質なのに右四間を使ったり、というように。

いや、そもそも「自分にどの戦法が向いているのかが分からない」という人が多いと思います。


自分に向いている戦法を特定できればかなり力を発揮しやすくなります。しかし、ここでは「居飛車」や「振り飛車」など具体的なものではなく、より抽象的なものに焦点を当てます。


それは「属性」です。僕は、攻めと受けのどちらが得意か、堅さと広さのどちらを好むのかなどの個性は、ある程度属性によって分類できると考えています。そして、およそ自分の属性に適した戦法を使えば力を発揮しやすいと思います。


ここからも僕の考えですが、属性とは「四元素」によって表現できます。四元素とはゲームが好きな人には馴染みがあるかもしれませんが、「火・風・水・土」から成る4つの元素、および属性です。


さて唐突ですが、これをおおまかに、棋風に当てはめてみましょう。


属性   性質        戦法例

火 …重い攻めの性質
   力を溜めて一気に叩く  右四間、穴熊

風 …軽い攻めの性質
   空中戦が得意     横歩取り、石田流

土 …剛の受けの性質
   制圧が得意か      雁木、矢倉系統

水 …柔の受けの性質
   呼び込み、絡めとる   右玉、四間飛車

無(全)          オールラウンダー


あくまで一例ですが、矢倉3七銀が得意な人なら「火」の性質が強く、右玉が得意な人なら「水」の性質が強いでしょう。また、満遍なく指しこなせる人は無、あるいは全ての性質を持ちます(持っている属性は1つとは限りません)。


おおむね、居飛車党は「火」と「土」、振り飛車党は「風」と「水」の性質が強い傾向にあります。


自分がどの属性に該当するかは、指し手の傾向によってある程度判断できます。


例えば、攻める時に力を溜めて攻める人は「火」、陣形が整う前に斬りかかる人は「風」。

また受けにおいては、弾き返すように受けることが多い人は「土」、いなすように受けることが多い人は「水」の性質が強いでしょう。


僕の場合は「力を溜めてから攻める」ことが多く、かつ「弾き返すような受け」や「制圧」を好みます。したがって、僕は「火」と「土」の性質を持っていると言えます。重装騎士のイメージですね。

矢倉や穴熊は僕の肌に合うので愛用していますが、横歩取りなどの空中戦には滅法弱いです。(そのため、空中戦や薄い玉形に誘導されにくい型を構築しています。詳細は割愛しますが、得意な戦型で戦い、苦手な戦型を避ける工夫をしてから一気にレートが伸びました。ここから「属性」というアイデアに至りました)


また「使用する戦法を絞ると良い」という言説をよく聞くかと思います。これは戦法を絞ることで得意戦法の熟練度が高まる事はもちろんですが、「戦場が限定される=苦手な展開になりにくくなる」という理由も大きいです。それはつまり、「力を発揮しやすくなる」ということです。


「24のレートが500ほど上下する」などという話も聞きますが、いくらムラがあると言ってもそれのみで大幅に上下するとは考えにくいです。しかし、集中的に苦手な展開になる戦いが続けば、三段階ほど落ちてしまうことも十分にありえます。


苦手な展開になるということは、剣士が槍で戦い、魔術師が肉弾戦をするようなものです。「得意か苦手か」ということは、それほどまでにレート、一時の実力に大きな影響を及ぼすのです。


「得意な展開にし、潜在力を発揮する」
―これが、自分の属性に沿った戦法を使うことの意義です。


もしあなたが不得手な武器でばかり戦っていたとしたら、自分の属性を知り、適した戦法を使うことで、水を得た魚のように飛躍的に棋力が上がるかもしれません。



「自分の土俵でプレーせよ」 (カスパロフ)



とりあえず以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




以下は補足や余談。

(ここまで書いておいて何ですが、「四属性」はあくまで一例です。確かに、これでおおまかな棋風や性質を判断することはできるかと思いますが、個人が持っている潜在力はとても複雑です。例えば四属性以外にも、相手に合わせて動く「鏡」の性質、複雑でつかみ所のない展開に誘う「霧」の性質、油断させて化かすような「妖」の性質など、挙げるときりがありません。なので、100%の力を発揮するには最終的には自分だけの属性、スタイルをつくることが求められます。最強は「オリジナル」です。)


(このような(属性を知ることによって力を発揮する云々という)考えに至った背景には、僕自身が(将棋に限ったことではないですが)ずっと苦手なことをしていて、苦渋を味わってきた事があります。長い間「自分はダメだ」と劣等感に苛まれながら悶々としていたのですが、力の出し方を少し覚えてからは世界が変わりました。将棋でも、将棋以外でも、思うように自分の力を出せていない人は多いと思います。実は、そのような人が自分を解放できるきっかけになればと思い、このようなブログを始めました。将棋以外の事もいずれ書くつもりです。

まあそれは置いといて、大学の将棋部で、僕が自分の棋風を確立するきっかけになった出来事があります。それは、当時の主将が僕の棋風を「慎重な攻め将棋」と評したことです。僕はそれまで「攻め」のみが自分の持ち味だと思っていたのですが、彼の一言で、実は「受け」や「鏡」の性質も少なからず持っている事に気づきました。それからは、攻め一辺倒ではなく、「待つ」ことや「相手に合わせて動く」ことを心掛けました。そうして色々と工夫を重ねて今に至ります(棋風改造以外では終盤を徹底して鍛えました。詰めが甘かったので)。

勉強してもなかなか勝てない、というのは非常に苦しいです。そこで詰将棋棋譜並べなどをもっと頑張るというのは正攻法ですが誰にでもできることではありません(というかできるならとっくにやっているでしょう)。そこで、考え方を一転してみると全く別の道が開けることがあります。というわけで、どれだけ書けるかは分かりませんが、本記事のようなやや変わった事をこれからも書いていこうと思います。

今度こそ終わりです。ではまた。